うす靄の日ざす疎林に秋の嶽
山茶花に入日を惜しむ時津風
稿しぶる寒のきびしく慈悲もなし
凛々と落月蟲にとどまれり
露ふんで四顧をたのしむ山の中
素堂碑に霰ふりやむ山の径
藪の端を染むる冬日の仄かにも
松過ぎの後山に淀む炭煙り
寒明けの風吹きわたる深山空
爪もろく剪るに甲斐なし冬籠
園わたる隣の煙や秋日和
比良よぎる旅をつづけて盆の東風
啄木鳥の日和さだまる瀧の上
及ばざる天の光りに蟻地獄
日照雨して檜山の蝉の聲ごもる
夏風に夜の閃光掛け鏡
温泉の丘の頬白とまる桑の先
たけたかく芒はらりと天の澄み
青麥に日日沈む地の憂ひ
遠足兒よどむに乳牛尾をふりて
濤近き北邊の墓秋の草
深山にわが影ふみて秋日和
秋の風富士の全貌宙にあり
地蔵盆負ふ兒曳く兒に蛍籠
渓流の畔の起伏に五月晴