おしなべて懈怠の山河燕来る
書庫の塵冬日親しくなりにけり
文机にねむきうたたね春嵐
光陰と土に鎮まる蟻地獄
夏空に地の量感あらがへり
青萱の石にみだるる炎天下
山つばめ鳴きて野にそふ山閑か
ほたるとぶ光りいろめく宵の口
幽谷にさす日はぐくむ梅雨の巌
人よむに如かず正月諷詠詩
霊山を仰ぐ夜の果て雪の降る
拓村のなりはひむつむ睦月かな
雲表にみゆる山巓初昔
後山へ霜降月の橋をふむ
霜ふみて深慮を秘するふところ手
春寒く梅にやどかる尾長鳥
中盆の人真似て啼く山鴉
咲きしづむ躑躅に翔ける岩燕
はかなきは女人剃髪蛍の夜
ものの音沈めて深き寒の闇
霊山の峡の常山木に正午の日
蝉しぐれもろ手を揚げて措きどなし
麥の秋山端の風に星光る
うるほへる色仄かにて花すすき
迎春の恩愛を身に老の坂