むらさきのこゑを山邊に夏燕
奥山の天をうつろふ夏雲雀
閑古啼き麥穂をわたる雲を見る
後山の梅雨月夜なる青葉木菟
ほととぎす鳴きて遠めく山の瀧
向日葵や炎夏死おもふいさぎよし
日輪の午に入るあそび五月山
炎天の山河を蔽ふ宙の濤
炎天の高みの黝む緑樹帯
秋風やいのちうつろふ心電図
収果期の鴉老獪山に鳴く
雪山に水ほとばしる寒の入り
露の秋いのちもろきは老のみか
報恩講後山西日の影流れ
深山路に雲ふむ尼僧盂蘭盆會
正月の油を惜しむ宮の巫女
岩膚の玉あられやみ霑へり
冬水の韻にそひて墓畔ゆく
園の霜白鳥はるか水に泛く
山瀧に日射すとみゆれ懸巣翔ぶ
大原のとある農家の羽子日和
寒雁のつぶらかな聲地におちず
寒雁に騒立つ湖の場を展く
冬の雁並みゆく翳のひくまりし
夜嵐に寒雁鳴くも薄月夜