和歌と俳句

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蛍火の鞠の如しやはね上り 虚子

茂吉
彼岸に何をもとむるよひ闇の最上川のうへのひとつ蛍は

茂吉
蛍火をひとつ見いでて目守りしがいざ帰りなむ老の臥処に

とらへたるひかり手をすくほたるかな 蛇笏

きりさめにほたる火しづむやへむぐら 蛇笏

かりかごのぬれ草にゐる初ほたる 蛇笏

てうつしにひかりつめたきほたるかな 蛇笏

雨気こめて宵闇の蒸すほたる川 蛇笏

あるときは瀧壺ひくくほたる舞ふ 蛇笏

雨の沼蛍火ひとつ光り流れ 多佳子

蛍過ぎ海まつくらに荒れつのる 三鬼

脂粉なき少女とともに蛍狩 誓子

蛍獲て少年の指みどりなり 誓子

蛍火の生き残りゐる骸かな 朱鳥

人のうへやがてわがうへほたるかな 万太郎

蛍にもある物語旅に聞く 青畝

蛍火の明滅宙にひとつきり 波津女

蛍火の低ければ吾もかがみけり 波津女

蛍火が玻璃戸にすがるあはれさよ 波津女

蛍捕る伊勢街道の橋の上 青畝

蛍死す風にひとすぢ死のにほひ 誓子

蛍火の青きにおびえそめむとす 草城

断崖へ来てひたのぼる蛍火は 多佳子

蛍火や語らひ合ふといへど僧 鷹女

指に匐はせ美濃の蛍を頒ちあふ 誓子

蛍火となり鉄門を洩れ出でし 静塔

蛍火の空にとぎれて継ぐ火なし 誓子

詩の友の他に友なし蛍火立つ 静塔

寝るまへの蛍に水をあたへけり 

胡桃樹下早瀬のほたるよどみては 蛇笏

籠を出て一翔長き蛍火よ 誓子

なめらかに進み蛍の火は尽きし 静塔

蛍火や迅風のごとき母の脈 波郷

蛍火や松十方に暑を岐つ 龍太

蛍火や少年の肌湯の中に 龍太

蛍火や稿とりちらす旅のまへ 秋櫻子

蛍火や遺骨の重さやや手慣れ 草田男

急流の至近に蛍火をともす 誓子

蛍火や箸さらさらと女の刻 龍太

蛍火の一翔つよく月よぎる 多佳子