和歌と俳句

水原秋櫻子

麦秋の麦倒れたり鶴見川

蛍火や稿とりちらす旅のまへ

軋りいづ馬車や雨降る夏柳

喇叭吹き馬車着く梅雨毛越寺

や堂塔亡びまた建たず

高館の梅雨霧に馬車濡れかへる

田を植ゑて伽羅御所残るものもなし

雨の洲の卯の花かなし衣川

北上川 梅天ひくく南せり

巣立鳥秘仏開扉に声とほし

梅雨秘佛朱唇最も匂ひける

青梅雨の金色世界来て拝む

ほととぎす秀衡椀の名をとどむ

優曇華や金箔いまも壇に降る

田植すみ夕焼ながす雄物川

鳥海の雪映る田を植ゑのこす

岩の上燈台を置きて南風吹けり

津軽とて梅雨青雲に雪の山

老鶯や岬端波の燻し銀

葭切や潮の早瀬に一漁村

桜桃村月山の雪さやかなり

梅雨の瀬の簗駈けのぼる最上川

簗に獲て鰭傷つけり梅雨の鯉

大人の墓故山の梅雨の月とあり

月下にて蚕飼の灯かも洩れて見ゆ

百舌鳥来鳴き夜明の妻は病めるなり

妻病めば秋霖さむく餘生濡る

妻病めり秋風門をひらく音

妻癒えて良夜我等の影並ぶ

十六夜の雨瀧なせり森の前

末枯れて朱焔の日ありルオー展