和歌と俳句

鳥海山

麻刈りて鳥海山に雲もなし 子規

鳥海にかたまる雲や秋日和 子規

秋の空鳥海山を仰ぎけり 漱石

雲霧や風は神よばひしてや鳴る 碧梧桐

鳥海を肩ぬぎし雲や渡り鳥 碧梧桐

千樫
海の上にうちいでて見れば雪ひかる鳥海山に日はまとも照れり

田植笠に雪の鳥海浮ぶ日よ 橙黄子

赤彦
秋早く稲は刈られてみちのくの鳥海山に雪ふりにけり

鳥海の二重の裾や秋の天 素十

迢空
はろばろに澄みゆく空か。裾ながく 海より出づる鳥海の山

迢空
鳥の海の山ふところに、さ夜ふけて こだまを聞けり。獅子舞ひの笛

茂吉
憂ひつつわが立つ道に雪ふりし鳥海山の霽れきたる見ゆ

茂吉
しづかなる空にもあるか春雲のたなびく極み鳥海が見ゆ

茂吉
ここにして蔵王の山は見えねども鳥海の山眞白くもあるか

茂吉
雪ふれる 鳥海山は けふ一日 しづかなる空を 背景とせる

茂吉
うつり来て家をいづればこころよく鳥海山高し地平の上に

茂吉
鳥海を 前景にして 夕映ゆと そのくれなゐを 語りてゐたり

茂吉
うつり来てわれの命を抒べむとす鳥海山の見ゆるところに

茂吉
しづかなる曇りのおくに雪のこる鳥海山の全けきが見ゆ

茂吉
海つかぜ西吹きあげて高山の鳥海山は朝より見えず

茂吉
もえぎ空はつかに見ゆるひるつ方鳥海山は裾より晴れぬ

茂吉
鳥海をふりさけみればゐる雲は心こほしき色に匂ひつ

茂吉
大石田の山の中よりふりさくる鳥海山は白くなりたり

茂吉
いただきに黄金のごとき光もちて鳥海の山ゆふぐれむとす

茂吉
鳥海の いただき白く 雪ふれる 十月五日 われは歸り来

茂吉
みちのくの鳥海山にゆたかにも雪ふりつみて年くれむとす

茂吉
もも鳥が峡をいづらむ時とへど鳥海の山しろくかがやく

茂吉
雪しろき裾野の断片見ゆるのみ四月一日鳥海くもる

茂吉
全けき 鳥海山は かくのごと からくれなゐの 夕ばえのなか

茂吉
北とほき 鳥海山は まどかにて けむる残雪を 踏み越ゆわれは

茂吉
いただきは棚びかぬ雲こごりつつ鳥海山に雪ふるらしも

茂吉
きびしくも 冬になりたる 空とほく 鳥海山は 見えざるものを

鳥海の雪映る田を植ゑのこす 秋櫻子

夜鷹鳴く鳥海までの真の闇 青邨