和歌と俳句

釈迢空

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おほらかに 人のことばの思ほえて、山をあるけば、いきどほりなし

湧く水の音の 幽かに聴きかむとす。かく夜ふかきも、稀になりたり

せど山へ行きにし人を 思ふなり。忘れて居しが 時たちにけり

おもしろき声はすれども、行きがたき屋敷林の奥を おもへり

山びとの 歳木樵りつむ音ならし。夕日となれる庭に かそけき

こがらしの音やむらしも。向つ山。山にむかひて居る 心はも

御柱 今年となりて、春 寒し。ゆくりなく来て、やまひをとふも

ひねもす ゐねむりすごしたり。雨ふり霽れて、まだ昏れぬ庭

遠く居て、人は 音なくなりにけり。思ふ心も、よわりゆくらし

をみな子を 行くそらなしと言ふなかれ。宇曾利の山は、迎ふとぞ聞く

荒山に 寺あるところ━昏れぬれば、音ぞともなく 琉気噴くなり

風すぐる 四方の木梢のひそまりに、しはぶきしたり。長き この夜ら

遠方の枯野に光る 日あたりは 睦月と思ふなごみ ともしき

生井子が ほのに目あきて見し光り、天つ光りは しづかなりけむ

最上川ぞひに ひたすらにくだり来て、羽黒の空の夕焼けも 見つ

はろばろに澄みゆく空か。裾ながく 海より出づる鳥海の山

この国に 我は来にけり。山河に向けば、聞きかむとす。ふる人のこゑ

鳥の海の山ふところに、さ夜ふけて こだまを聞けり。獅子舞ひの笛