山に来て、山をさびしと言ふ我の 心あはれを 人知らざらむ
昼出でて 見はらす山は、雪ふかし。晴れきはまれる村の しづけさ
村びとの若きは 村を行きへりて、残雪の峰の 空に澄みたる
年毎の 山の睦月に行きあひし かの若人らも、見ずなりにけり
明々の 山の真昼や。山風の音なぎ行きて つぶさに聴ゆ
遠丘根に するもの音を感え居り。人過ぎて 時 立ち行きにけり
空曇る霜月師走 日並べて、門の落ち葉を掃くかせけるかも
隣りびとらのあなどり言を 告げに来るこのさかしびとも、言ひかねめやも
あなどられつつ 住み古りにけり。おほよそは、となりびとらに ことどひもせず
ひたつちに、石のほとけの頚折れて、可怜なるをも、人に見せつつ
十一月の海 あたたかき真昼凪ぎ。寝欲しき心 橋越えむとす
暁の闇を あはれと言ふ声す。歩行新宿を別れ行く子か
海の音 聞えぬ朝か。わかれ来し肌にさはりて、寒きたなそこ
暁はわかれがたしと言ふ声の、ひたぶるなるを聞けば、さびしも
ひたひたと 六郷牛を牽き過ぐる道に出でつつ、歎く子あらむ
朝闇にみだれ鳴く声 頻々に、海の鴎は 町空による
をちかたや 草高からし。さ夜ふけと 鳴く音ひそまる鳥を 思へり
よろこびて うち叩かれてゐる子らを 叱るすべなし。山のあそびに