和歌と俳句

齋藤茂吉

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あたらしき 命もがもと 白雪の ふぶくがなかに 年をむかふる

おほどかに 流れの見ゆる のみにして 月の照りたる 冬最上川

あかときの 山にむかひて ゐる如く 大きなるかや この諦念は

ひむがしに 雪はうごくと 見しばかりに 最上川に降る 朝しぐれの雨

ひとり寐

いただきに 黄金のごとき 光もちて 鳥海の山 ゆふぐれむとす

秋山を わが下りくれば 大石田 西のひかりを 受けつつぞゐる

ひとり寐の 夜な夜なに見る 夢いくつ 消滅するを とどめかねつも

最上川 岸べの雪を ふみつつぞ われも健康の 年をむかふる

もろともに 見らくし好けむ かうべ紅き 鶴まひたたむ 空のあけぼの

をりをり

鳥海の いただき白く 雪ふれる 十月五日 われは歸り来

かすかなる 吾が如きさへ 朝な夕な ふかくなげきて 時は流るる

またたびの 實を秋の光に 干しなめて 香にたつそばに 暫し居るなり

はるばると 遡りくる 秋の鮭 われはあはれむ ひとりねざめに

あたたかき 心の奥に きざすもの 人を救はむ ためならなくに

寒土

たけ高き 紫苑の花の 一むらに 時雨の雨は 降りそそぎけり

やうやくに 病癒えたる われは来て 栗のいがを焚く 寒土のうへ

かみな月 五日に雪を かかむれる 鳥海のやま 月讀のやま

あたらしき 時代に老いて 生きむとす 山に落ちたる 栗の如くに

栗の實の 落ちつくしたる 秋山を われは歩めり ときどきかがみて