和歌と俳句

勿来の関 なこそのせき

福島県いわき市に在った関。

後撰集・恋 小八条御息所
たちよらば影ふむばかり近けれど誰か勿来の関をすゑけむ

信明
名こそ世に なこその関は ゆきかふと 人も咎めぬ 名のみなりけり

和泉式部
なこそとは誰かはいひしいはねども心にすふる関とこそみれ

後拾遺集 源師賢朝臣
東路は勿来の関もあるものをいかでか春のこえてきつらむ

千載集 源義家
吹く風をなこその関と思へども道もせに散る山ざくらかな

顕季
東路の 勿来の関は 世とともに つれなき人の 心なりけり

俊頼
さもこそは 勿来の関の かたからめ さくらをさへも とどめけるかな

俊頼
あつまぢの 勿来の関も わが恋ふる ことのこころの なにこそありけれ

俊頼
あづまぢの 勿来の関の よぶこどり 何につくべき わが身なるらむ

俊恵
妹がもる 勿来の関を はかれども 鳥ならぬみは かなはざりけり

新勅撰集・恋 西行
東路や信夫の里にやすらひて勿来の関を越えぞわづらふ

茂吉
みちのくの勿来へ入らむ山がひに梅干ふふむあれとあがつま

松の外女郎花咲く山にして 碧梧桐

咲くやみちのくへ入る関のあと 秋櫻子

鰯雲天にひろごり萩咲けり 秋櫻子

関こえて朝ひぐらしの丘いくつ 秋櫻子

や奥の青嶺にうちひびき 秋櫻子

関のあとつれだちゆくや田草取 秋櫻子

断崖に勿来の濱は百合多し 秋櫻子

漬梅を抱き勿来の関越えむ 楸邨