和歌と俳句

水原秋櫻子

霧の原眞神がゆける萱なびき

夕立雲葛咲く谷へ下りしづむ

咲くやみちのくへ入る関のあと

鰯雲天にひろごり萩咲けり

関こえて朝ひぐらしの丘いくつ

や奥の青嶺にうちひびき

関のあとつれだちゆくや田草取

断崖に勿来の濱百合多し

防波堤裸子むれて鯖を釣る

裸子のみな四五歳の日焼はや

鯖の子も四五寸あらめ竿しなひ

竿かりてわれも釣り得つ鯖の子を

苫舟をのつぶて打ちにけり

晩稲田のせはしき日なり網代守

手をのべし落穂を渦にとられけり

野の落穂ひとの書斎に持ちて入りぬ

沖の鯊大きくなりぬ冬隣

潮さして鰭よろこべり魚籠の鯊

薄氷のこのごろむすび蓮枯れぬ

麗はしきなりければ蟲もこぬ

わがいのちさびしくは麗はしき

わがいのちにむかひてしづかなる

疲れてはおもふことなしの前

椅子よせてのかほりにものを書く