和歌と俳句

橋本多佳子

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拾ひたる空蝉指にすがりつく

炎天や雀降りくる貌昏く

隠れ了ふせしと思ひゐるや瑠璃蜥蜴

一夜経て朝蛾行方を失へり

乳母車夏の怒涛によこむきに

雲の峰立ちてのぞける乳母車

夏氷童女の掌にてとけやまず

帰りゆく人のみ子等と蝸牛

後髪涼しき子かな母へかへす

寝冷子の大きな瞳に見送られ

日焼童子洗ふやうらがへしうらがへし

啼きひびくを裸子より受けとる

裸子をいかに抱かむ泣きわめくを

女童泣き男童抱くの下

夏雲の立ちたつ伽藍童女うた

童女うた伽藍片陰しそめけり

日を射よと草矢もつ子をそそのかす

日を射つて草やつぎつぎ失へり

燦々とをとめ樹上に枇杷すゝる

枝にあるをとめの脚や枇杷をもぐ

枇杷を吸ふをとめまぶしき顔をする

牛飼のわが友五月来りけり

草矢射る山の子草矢射らすは吾

新し田にてをとめの濡れとほる

八方へゆきたし青田の中に立つ

炎天に松の香はげし斧うつたび

炎天の梯子昏きにかつぎ入る

薔薇色の雲の峰より郵便夫

暑の中に吾をうつさず鏡立つ

祭太鼓うちてやめずもやまずあれ

爪立てども切れたるのつながれず

ゆくもまたかへるも祇園囃子の中

われもまたゆきてまぎれん祇園囃子の中

髪白く笛息ふかきまつりびと

鉾囃子高くくらきに笛吹く群れ

祭笛吹とき男佳かりける

祭笛うしろ姿のひた吹ける

生き堪へ身に沁むばかり藍浴衣

潮汲のゆきて夏濤に小さくなる

夏潮の二つの桶を肩にかけ

蝉声や吾を睡らし吾を急き