和歌と俳句

橋本多佳子

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鉄棒にさかしまたぎつ青吉野

吉野青山檜山修羅場を袈裟懸けに

高鳴つて鵜の瀬暮るるに遅れたり

腋も黒し鵜飼の装に吾を裹む

腕長の鵜飼の装に身を緊むる

狩の刻荒鵜手縄をみな結はれ

手縄結はるる不安馴れし鵜とても見す

鵜の篝夜の殺生の明々と

鵜篝の火花やすでに棹さし出

友鵜舟焔危し瀬に乗りて

狩場にて鵜の修羅篝したたりづめ

男壮りの鵜の匠にて火の粉の中

鵜舟に在りわが身の火の粉うちはらひ

かうかうと身しぼる叱咤鵜の匠

瀬落すや手縄曳かれて鵜が転び

早瀬ゆく鵜綱のもつれもつるるまま

中乗や男の腰緊り鵜舟漕ぐ

索かるるもまた安からむ手縄の鵜

鵜匠の眼火の粉になやむ吾を見る

鵜舟に在る女面を篝襲ひづめ

彼方にて焔はげしき友鵜舟

こゑとどかぬ遠さの火焔友鵜舟

友鵜舟離るればまた孤つ火よ

一炎やおのが狩場に鵜を照らし

鵜の篝倚せゐて崖の胸焦がす

鵜舟にあり一切事闇に距て

寝髪にほふ鵜篝の火をくぐり来て

鵜篝の火の臭の髪解き放つ

わがゆく道くらし鵜篝いま過ぎゆく

鵜舟過ぎしあとに夜振の小妖精

念々に紅焔靡く二タ鵜舟

二羽のゐて鵜の嘴あはす嘴甘きか

仔鹿の脚雨の水輪に急かれをり

破損仏緑光堂の隙割つて

ものをいふ老顔の口緑さす

薔薇崩る切るに躊躇の長かりき

一切の混沌青嵐矢つぎばや

蜘蛛の囲の蝶がもがくに蝶が寄る

湧きあふる歓喜は静かならず

泰山木ひらき即ち古びに入る

旅人はものなめげたり沙羅落花

沙羅双樹ぬかづくにあらず花拾ふ

夏行秘苑泉のこゑに許されて

沙羅落花傷を無視してその白視る

沙羅双樹茂蔭肩身容れるほど

夏行秘苑僧の生身のねむたげに

「脚下照顧」かなぶんぶんが裏がへり

一燭の饒舌夏行の僧の眼に

夏行秘苑指しびる清水魚生きて

風騒ぐ緑蔭の幹背を凭せ

草あらし香を奪はれて百合おとろふ

濃夕焼泥田をいでず泥夫婦

囲の蝶のもがきに蜘蛛のともゆれる

菖蒲園かがむうしろも花暮れて

万緑の中層々と贋アカシア

梅雨泥の靴裏汝の寝つづかしめ

西日の仮睡汝の荷汝をかばひ

森いでて女たる隠さず新毛鹿

穂草八方いづこかに仔鹿が隠れ

袋角脈々と血の管通ふ

農婦帰る青田をいでて青田中