和歌と俳句

橋本多佳子

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白炎天の切尖深く許し

太鼓の音とびだす祇園囃子より

の稚児袖あげ舞ひて衣装勝ち

炎天の眼に漲りての紅

眼前の鉾の絢爛過ぎゆくもの

鉾の後姿ゴブラン皇妃灼け放題

地車止り祗園囃子のとどこほる

鉾曲る前輪ぎぎと梃子を噛み

鉾過ぎし炎天架線工夫吊り

帰り山車走せて徒足脛揃ひ

砂利採りが砂利にまぎれて木曽青し

鮎の底流木曽となる荒性見せ

昼寝部落よ屋根にみな石重く

杏子熟れ落つ飛騨つ子の重瞼

青田豊年定紋頑と飛騨の倉

山のバス驟雨に合歓の紅の惨

緑山中下りがあつて車輪疾し

靴に踏み固しもろしこれが雪渓

一瞬の日にも柔らぎ雪渓照る

雪渓に手袋ぬぎて何を得し

大雪渓太陽恋ひの面あぐる

雪渓にひろふ昆虫の片翅を

残りて汚れて雪渓日曝し霧曝し

摂理の罅走る雪渓滅びのとき

霧の嶽上わが背に鳴るはわが翼

身伏せれば地ややぬくし霧押しくる

霧去つて魔王嶽南雪渓垂り

死を遁れミルクは甘し炉はぬくし

炉にかはき額にかたまる霧の髪

青林檎の青さ孤絶の山小屋に

豪雨中雪渓真白以て怺ふ

雪渓がごつそり痩せて豪雨晴れ

登山荘煙吐き吐く我らこもり

避難下山負はれて老いの顔高く

花桐や城址虚しき高さ保つ

密集の金魚に選別手網入れる

幣ひらひら夜も水口の神います

まくらせる北の空にてほととぎす

暁の雨蛙また枕ひびく

ひた翔くるこゑほととぎす鳴いて過ぐ

仰臥する胸ほととぎす縦横に

噴き出づるもて汗の身を潔め

麦の秋無縁の墓に名をとどめ

十薬の匂ひにおのれひき据ゑる

炎天に冥きこゑごゑ蜂巣箱

翅のうなりが蜂の存在青裾野

近づき過ぎバスに由布岳青胴のみ

青双丘乳房と名づけ開拓民

湖底に合す鶴見青裾由布青裾

昼浴衣地獄げむりを身に纏きて

過去見るかに老婆を長眺め

蜜まづき花のかぼちやに遠来し蜂

青嵐ガラス戸ひらき何招ず

青嵐危ふきときは身を屈し

青嵐静臥の椅子に身を縛し

眼つむればの誘ひひたすらなる

静臥飽く流泉のこゑ蜂のこゑ

ほととぎす叫びをおのが在処とす

病院の壁に囚はれ祭囃子

鉄格子天神祭押しよせる