和歌と俳句

阿波野青畝

春の鳶

瑠璃色にして冴返る御所の空

櫻貝軒端の砂にうちまじり

花の幹ぼんぼりあかりしかと受け

げじげじの命ちりじりばらばらに

蛍捕る伊勢街道の橋の上

早乙女の瀬石うつりにつづきけり

出水川いささか藍をとりもどし

大文字火をはねそめし端山かな

秋の蝶天王山の登り口

小春とは黄色の感じする景色

尼君の昔姫君薄紅葉

みほとけに仕ふるの用意あり

朝散歩しぐるるほどのうれしさに

ルノアルの女に毛糸編ませたし

ハイカイはフランスにあり翁の忌

枯るるもの枯るるならひに石蕗枯るる

もの問へば寒釣きげんわるかりし

大法話いまつづきゐる彼岸かな

土筆飯よりつまみとる塵一つ

土筆みな浮く桶の水深ぶかと

黛のにほひ描かれしかな

紅ほのぼの白ほのぼのと櫻菓子

よこたへて金ほのめくや櫻鯛

師の駕とともにあるなり花疲

とりいだす謡本あり花の旅