今宵よりはじまる月夜芙蓉閉づ
露びたりして瑠璃光の伽藍かな
朝夕がどかとよろしき残暑かな
秋風の柱をつつむ払子かな
追ひながら尼の秋の蚊物語
臘八や雪をいそげる四方の嶺
時刻来てともる燈台冬の雲
陶工と倶に晩餐冬ごもり
初凪の小舟に会ひぬ響灘
従順に杭打ちこまれ梅の花
北窓を開け父の顔母の顔
風花の我より君に逃ぐるあり
足音がかたまつて来る寝釈迦かな
美しき印度の月の涅槃かな
降りしらみ忽ち雪の涅槃寺
ミサの鐘すでに朝寝の巷より
黄凋の那智川沿ひの竹の秋
激流を鮎の竿にて撫でてをり
緑蔭の石截るひびき繰りかへし
緑蔭の城址の粗密まのあたり
古城址に神鳴雲の立迷ひ
涼しさや鳶笛ならふ師団址
のびちぢみしてのびてゆく浪涼し
梅干すや折焚く柴に笊ながら
ほの赤き塩こぼれ日日梅を干す