和歌と俳句

阿波野青畝

春の鳶

白桔梗たましひぬけといひつべし

蓋ありて明暗わかつ泉かな

生身魂きざす涙を笑ひ草

生盆や物故なされし露伴翁

月の池馬頭観世音侍したまふ

そぞろ行くここらが月の瓶原

去る者を追はず天下の子規忌かな

茶の花のうひうひしくも黄を点じ

秋晴やつひに微塵の雲も莫し

三千寺いづこ濃紅葉薄紅葉

しぐれつつ路傍の石も成佛す

冬の山たふれむばかり今日もあり

ミサの鐘頓に風花とびまさり

山国や夢のやうなる冬日和

やしばしば鳶の落ちる真似

投げし音耳に反し慈善鍋

馬画き厩めきけりクリスマス

破魔矢白く押物朱く賜はりし

ころがりてありし瓶子や注連焚火

注連焚きて斎の庭に跡とどむ

古風なる筥にねむれる歌留多かな

かぎりなき雪道我を帰さざる

水仙の花を貫く緑かな

潮騒にたんぽぽの黄のりんりんと

リリアンの覆ふ春燈僧の居間

はものやはらげに羽ばたきぬ

ねむりゐる親の燕の胸動く