和歌と俳句

山口誓子

構橋

空蝉の背より胸腔覗かれる

海際に跼みて紅き西瓜食ふ

墜ちかけし昼寝の谷をひき返す

海岸日傘挿し置く無人なるときも

海ちかく蟻の地獄を営める

月を見に来て掌に顔埋む

形正しき星座より星流る

日本掠める颱風に砂とぶ浜

寝室に棒立ちとなるいなびかり

秋の浪位牌を陸に揚げて去る

浜に降りゐる前身は稲雀

のこゑ寺に覆ひし琴立てり

やはらかき浜一夜にて霜に凝る

新聞の紙に霜置く海の浜

寒雲と会ひ颯颯とオリオン過ぐ

寒月が星座の間明るくす

海を出し寒オリオンの滴れり

寒雨降りゐしオリオン座大犬座

雪降る夜逃場は海のほかになし

雪積む夜海は底よりしづまれり

信仰は高きへ登る冬霞

炬燵寝の妻を哀れむその形を

甘きもの継ぎ目をなせり聖菓切る

柊の枝漂着ししばしをる

枯れの中ゴッホ自画像のみ朱唇