和歌と俳句

山口誓子

構橋

落花一片吾へと強く衝き来る

再婚す楓の花は丹塗りにて

虎杖の短き茎の酸に充ち

はややさしき丈を生ひ過ぎし

夏の航終る電線見えだして

塗剥げし貨船よ海は夏旺ん

いにしへも明石大門に南風怺へ

船の笛南風の中にて洲本よぶ

はや動かざる水馬暮を待つ

向日葵立つ方位未確の山の上

犬も覗きたじろぐ梅雨の崖くづれ

炎天の遠きものほど眼遣る

淡路家群りて近づけり

青淡路癒えず負はれて帰り来し

淡路小国夏川の磧荒れ

海峡に船見ず夏の海寂れ

藍浴衣いまより後も夫は亡し

考ふる胸もと暗き藍浴衣

精霊舟帆柱傾く難破ぶり

秋日照らせり基督の生るる前

温室の廃れに堪へず秋晴へ

葡萄の下吾が身長のまま歩く

葡萄垂らして葡萄畑急傾斜

鰯雲日本に死すること辞せず

颱風を経て飼鳩の瑠璃の頚