和歌と俳句

山口誓子

構橋

捌く弓とぶ矢光りて弓始め

無人島ならず春暁犬走る

春の昼字を見る眼鏡むしりとり

春夜更けこの一寸に電波混む

草餅を黒しと思ひ食べ終る

来る戦後版紙赤く褪せ

花暮れて駅には絶えず白蒸気

菫見て過ぐ藤房を見に来しなり

暑を兆し人は地面に腰卸す

砂あれば夏山にても掌に平す

夏山を行く岩岩に手触れつつ

明眸惜し汚れ尽くせる早乙女

友の金魚死なんとするを吻つつく

急流の至近に火をともす

昼寝せるとき魔性のものたかる

夏草の毛深き伊賀の私鉄線

隧道の中緑光のレール二本

旅ゆきたし港内に浮く夏蜜柑

閘門に密着したる七夕竹

秋晴へ眼界ひらけ眼戸迷ふ

颱風に妻は痩身飛ぶ飛ぶと

颱風に遅るる妻を眼で手繰る

颱風禍三尺下に常の砂

勤める如家出て直ぐにの坂

駛するうち没日が秋の山を出づ

花野には岩あり窪あり花ありて

は尾をくるりくるりと吾が首途

啄木鳥がつく洋館の木の部分