和歌と俳句

短夜

後撰集 兼輔
短夜の ふけゆくままに 白妙の 峰の松風 ふくかとぞきく

好忠
夏引の 白糸のてぐり まだしきに 夜は短く なりにけるかな

式子内親王
みじか夜の 窓の呉竹 うちなびき ほのかに通ふ うたたねの秋

定家
釣船に はかなくあかす 旅人の うき寝すずしき なつのみじか夜

定家
短夜の 猪名の笹原 かりそめに あかせばあけぬ 宿はなくとも

定家
なきぬなり 木綿附鳥の しだり尾の おのれにも似ぬ よはの短き

短夜に聞は砂場の大鞁也 来山

短夜や旭にあまる鶏の声 千代女

みじか夜や蚤ほとゝぎす明のかね 也有

短夜や棚に鼠の明のこり 也有

みじか夜や六里の松に更たらず 蕪村

みじか夜や毛むしの上に露の玉 蕪村

みじか夜や二尺落ちゆく大井川 蕪村

短夜や同心衆の川手水 蕪村

短夜や枕にちかき銀屏風 蕪村

短夜や芦間流るる蟹の泡 蕪村

みじか夜や眠らでもるや翁丸 蕪村

短夜や一つあまりて志賀の松 蕪村

短夜やおもひがけなき夢の告 蕪村

短夜や浪うち際の捨篝 蕪村

みじか夜の闇より出て大井川 蕪村

短夜や吾妻の人の嵯峨泊り 蕪村

みじか夜や浅瀬にのこる月一片 蕪村

みじか夜や小見世明けたる町はづれ 蕪村

みじか夜や浅井に柿の花を汲 蕪村

みじか夜や伏見の戸ぼそ淀の窓 蕪村

みじか夜や葛城山の朝曇 蕪村

みじか夜や村雨わたる板庇

みじか夜や人現なき茶師が許 暁台

みじか夜や今朝関守のふくれ面 太祇

みじか夜やむりに寐ならふ老心 太祇

みじか夜や雲引残す富士のみね 太祇

みじかよや旅寐のまくら投わたし 太祇

短夜をきそふこゝろよ老の夢 青蘿

短夜や空とわかるゝ海の色 几董

短夜や伽羅の匂ひの胸ふくれ 几董

短夜に竹の風癖直りけり 一茶

短夜をあくせくけぶる浅間哉 一茶

短夜やくねり盛の女郎花 一茶

短夜や河原芝居のぬり皃に 一茶