和歌と俳句

與謝蕪村

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ほととぎす平安城を筋違に

宵々の雨に音なし杜若

近う聞坐主の嚔や若楓

長旅や駕なき村の麦ぼこり

病人の駕も過けり麥の秋

旅芝居穂麦がもとの鏡たて

酒十駄ゆりもて行や夏こだち

麦秋や何におどろく屋ねの鶏

閑居鳥さくらの枝も踏で居る

蚊やりしてまいらす僧の坐右かな

学びする机のうへの蚊遣かな

いざさらば蚊やりのがれん虎渓まで

腹あしき隣同士のかやりかな

短夜や芦間流るる蟹の泡

明やすき夜や稲妻の鞘走り

みじか夜や眠らでもるや翁丸

なれ過ぎたをあるじの遺恨哉

鵜舟漕ぐ水窮めれば照射哉

暑き日の刀にかゆるかな

絵團のそれも清十郎にお夏かな

学問は尻からぬけるほたる

さみだれや名もなき川のおそろしき

木のもとにの口切あるじかな

あら涼し裾吹蚊屋も根なし草

褒居士はかたい親父よ竹婦人

天にあらば比翼の籠や竹婦人

つけて誰待としもなき身哉