西山宗因
そよそよそよ昨日の風体けふの春
難波江はけふぞ春風春の水
信濃路の駒は春もや木曾踊
世の中よてふてふとまれかくもあれ
されば爰に談林の木あり梅の花
はつ花や急ぎ候ほどに是ははや
花で候御名をば得申舞の袖
ながむとて花にもいたし頸の骨
花むしろ一けんせばやと存候
海はすこし遠きも花の木の間哉
殿風や東西東西江戸ざくら
松に藤蛸木にのぼるけしきあり
菜の花や一本さきし松の下
よれくまむ両馬が間に磯清水
命なりさゆの中山香需散
峰入は宮も草鞋の旅路哉
薬かん屋も心してきけ時鳥
ほととぎすいかに鬼神も慥にきけ
蛍火は百がものありなめり河
蚊柱や削らるるなら一かんな
花落ちて青雲なびく樗哉
なんともはや楊梅の核昔口
秋はただ法師姿の夕べかな
価あらば何を雄島の秋の景
月出でて一燈空し谷の庵
風にのる川霧軽し高瀬舟
白露や無分別なる置き所
秋の葉や深山もさやに緋ぢりめん
桐の葉にふればや雨も秋の声
鴨の足は流れもあへぬもみじかな
秀でたる詞の花は是や蘭
にて候高野山より出たる芋
すりこ木も紅葉しにけり唐辛子
さびしさにたへし跡ふむ落葉哉
里人のわたり候か橋の霜
となん一つ手紙のはしに雪の事
しら箸の夜のちぎりや亥の子餅