わすれては坐をあけてまつ夕凉
魂を招かむ月や萩のうへ
ものいは ゞうしといふらん箱の雛
燈もたよりも消る霜夜かな
死ぬことをしつて死けり秋の風
花とさくもなき俤歟われもかう
我おもひ雪の箱根を越さで泣
二十五年今朝あだしの ゝ塚の霜
声を添て塚の名ひ ゞけ青嵐
初秋の四十もうとき寐覚哉
やむ人によしのをかたる春の雨
夏草やうき世を覗く窓一ツ
酒の香を松にかこみて青嵐
短夜をきそふこ ゝろよ老の夢
す ゞしさや垣のとなりは極楽寺
橙の色を木の間の冬の月
蒔つけし夜より鶴鳴岡の麦
千鳥聞其ちどりこそ生き仏
人ありて琵琶にや作る長瓢
五十まで母もつ人ぞ花の春
桃さくら其奥床し夜の 雛
家も身も幟立世を得たりけり
つたへ置け桃咲宿の不老不死
鶴も巣を今日かけ初めむ雛の宿