高浜虚子
牡丹主傀儡よび舞はす座敷かな
蓬々と汝が著たる袷かな
湯煙に人現るる時萱草も
耶馬に来て羅漢寺の蚊に食はれけり
夏草に石も上げ得ぬ我が力
どかと解く夏帯に句を書けとこそ
客はみな右舷日蔭の籐椅子に
湯煙の消えてほのかや合歓の花
遠雷やいと安らかにある病婦
雷火燃ゆ大玻璃障子一杯に
満潮の海の中なる日除かな
碧玉の腸出たる毛蟲かな
真清水も温泉も流るる儘に在り
日盛りの人ひしめける温泉かな
セルを著て夫婦離れて椅子に在り
厚板の錦の黴やつまはじき
新しき帽子かけたり黴の宿
螢追ふ子供に逢へり里近し