和歌と俳句

種田山頭火

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水音のかなかなの明けてくる

みんなたつしやでかぼちやの花

こどもばかりでつくつくぼうし

どこまでもついてくるぞ鉄鉢の

家がとぎれると水音の山百合

ここからふるさとの山となる青葉

ふるさとの水をのみ水をあび

つゆのつゆくさのはなひらく

炎天の鴉の啼きさわぐなり

石にとまつてよ鳴くか

けふはプラタナスの広い葉かげで昼寝

ふるさとのながれにそうて去るや炎天

逢ひたいが逢へない伯母の家が青葉がくれ

ふるさとや尾花いちめんそよいではゐれど

はるかに夕立雲がふるさとの空

まふへに陽がある道ながし

おもひでは暑い河原の石をふみ

糸瓜伸びたいだけのぼつたりさがつたりして花つけた

風はうらから風鈴の音もつつましく

ひえびえとして夜明ける風鈴のなる

なにかつかみたい糸瓜の蔓で朝の風ふく

とまるより鳴き、鳴きやめるより去つた夕蝉

風鈴のしきりに鳴るよい訪ねてくれる日の

訪ねてくれて青紫蘇の香や飲ましてくれる

夕焼ふかい蜘蛛の囲でさけぶ蝉あはれ

何はなくとも手づくりのトマトしたたる

胡瓜の皮をむぐそれからそれと考へつつ

夏草ふかい水底の朝空から汲みあげる

朝ぐもり触れると死んだふりする虫で

ほろりと糸瓜の花落ちた雨ふる

蛙おさなく青い葉のまんなかに

こんなに降つても吹いても鳴きつづける蝉の一念

風がさわがしくはいそがしく

ついてきたの二ひきはめをとかい

竹になりきつた竹の青い空

きのふもけふも茄子と胡瓜と夏ふかし

ききようかるかやことしの秋は寝床がある

風が吹きぬける風鈴と私

いちぢくにからまつたへちまの花で

死んだまねして蜘蛛はうごかない炎天

鳴るは風鈴、この山里も住みなれて

伸びあがつて炎天の花

子のことも考へないではない雲の峰くづれた

親子でかついでたなばたの竹

真昼を煮えてゐるものに蝉しぐれ

つくつくぼうしあすから旅立つ私で

糸瓜ぶらりと地べたへとどいた

どこでも歩かう月がのぼる

街はお祭提灯の、人のゆく方へゆく

月へ花火の星があがつた