和歌と俳句

臼田亞浪

やどの道も町へ下りてゐる

雨戸ひく時こほろぎのころげ落ちたり

庭の土青くなりたる月夜にて

ころころはころころと鳴く雨の宵

草原や夜々に濃くなる天の川

暁深くおのづからみだれけり

燈も秋と思ひ入る夜の竹のかげ

有明やすすきの中の畑づくり

けふの日の朝顔の朝ながかれや

児らゐねば窓に蜻蛉ねむらせつ

暮れてゆく秋の出水の戸口まで

沼楓色さす水の古りにけり

滝とどろとどろと桂はや散るか

夢がちに明けて霧さわぐなり

の泊りランプが泣いて夜長けれ

山彦のあれを呼ぶなり夕紅葉

東京の燈も寝頃なる天の川

枝さきに西日かかりて秋の風

秋来らむ芭蕉に雨のしばしばす

満月や腰が冷ゆると妻のいふ

草道の家かげに入り天の川

いるか飛ぶ秋を晴れたる潮路にて

秋風の波たち来ればうらがなし

秋風の川ひろければ旅おもふ

畑なして向日葵は実になりゆける

廃園の爪紅の実をはじきなど

桔梗も痩せて喇嘛僧影の如し

長城の月落日を追ふさまに

湛水の夜を白々と秋闌けし

王宮の荒れんとすなり菊あせて

野分吹く白河の濁り打ち合ひつ

鰡獲たるその顔見せよ荻夕べ

七夕柳かこみ点せりをさならは

潮騒や七夕柳散るもあり

雨細き暁のに対ひけり

島影の常世に眠り照りかすむ

燈籠のわかれては寄る消えつつも

ひとつ残りて灯籠をかそけくす

月となる洞爺の水に虫通ふ

蜻蛉は煙を濃くしたり

ふと覚めて旅ならぬ身に近し

秋暑く島の浜木綿花過ぎたり

夕三日月氷掻く音絶え間あり

舟虫に心遊ばせ月を待つ

燈照らして梵字曼荼羅冷やけき

照ればなほ秋ゆく竹の翳深く

曙の尾花むらさきふくみけり

虫きいてちと眠りたり颱風裡

洪水あとの石白く灼け鳥渡る

燈籠に立つ影に寄る影のあり