桑摘みの昼をもどるや雲の峰
闇の底に沈みゆく心鳴く蚊かな
打水や砂に滲みゆく樹々の影
蝉時雨山坊巒気とざしたり
山蝉や霧降る樹々の秋に似て
馬虻の氷室口までつき来り
月あらぬ空の澄みやう月見草
鳩啼いてひとり旅なる山の麦
蛍呼ぶ子の首丈けの磧草
水馬底藻に深さはかられず
日かげなき暑さに堪へて歩むなり
高芦に打ち込む波や青嵐
鳰鳴くや水も夏なる雲の影
泰山木の大き花かなにほひ来る
炎天の石光る我が眼一ぱいに
涼風や寄る辺もとむる蔓のさま
蚊に暮れし草家草家の傾ぎざま
甘草の花がのけぞり青薄
蛾打ち合ふ音にはなれて眠りたり
郭公やどこまで行かば人に逢はむ
秋近き雲の流れを簾越しかな
山霧に蛍きりきり吹かれたり
青田貫く一本の道月照らす
遠つ祖ここらや漕げる松涼し