泥棒市のぼそぼそな木も若葉して
若葉曇り夜は梟の啼き合へる
黴臭な夜の壁かげに圧されけり
夕凪や濱蜻蛉につつまれて
ダリア大輪崩れて雷雨晴れにけり
鵜の嘴のつひに大鮎をのみ込んだり
舌さらさらといつまで残る茗荷の香
雨霧らふ若葉の中の椎若葉
一ところ風見ゆる山の青葉かな
山清水魂冷ゆるまで掬びけり
花桐の紫はしる雷雨かな
のうぜんの暮れて色なし山の家
ががんぼのもげたる足の本の上
蝙蝠や町の夕べは人くさき
花桐や海は音なく照りまさり
牡丹崩れぬ手にとつて見るべしや
月涼しわれは山の子浅間の子
その昔代々木の月のほととぎす
ほととぎすふるさとの夜の夢浅く
螢ゆく磧の果ての夜の雲
草深く道失へる暑さかな