和歌と俳句

藤原俊成

されば野原もいとど霜枯れてものさびしくもなりまさるかな

しぐるるもよそにや人の思ふらん憂きには袖のものにぞありける

みな人の霜となれとや露の身を草の末葉に結び置きけん

さゆる夜におつればこほる涙こそ枕のもとの霰なりけれ

杣山や梢にをもる雪折れにたへぬ歎きの身を碎くらむ

身の憂きにおれ臥しぬればしほれ蘆の世をば難波のなにか怨みむ

行方なくあくがれぬとも濱千鳥とまらむ跡を誰か偲ばむ

新勅撰集・雑歌
春日山いかに流れし谷水のすゑを氷のとぢてはてつらむ

水のうへにいかでか鴛の浮かぶらむ陸にだにこそ身は沈みぬれ

身を寄せむかたこそなけれ宇治川の網代をみてや日を送らまし

つくづくと寝覚めて聞けば里神楽託言がましき世にこそありけれ

狩り暮らしあはする鷹のみねこえに行末しらぬほどぞかなしき

煙立つ小野の炭竈われなれや歎きを積みてしたにもゆらん

山賎の榾さしあわせ埋む火のあるとも無くて世をも経るかな

さりともと思ひしほどの年だにも暮るるはやすき空なかりしを

洩らしても袖や萎れむ數ならぬ身をはづかしのもりの雫は

憂きにのみ沈む三稜のくり返ししたに乱れてやみぬべきかな

恨みずや君にのみかはおほかたの世にも逢ふてふことし無ければ

逢ひ見ても夢かとのみぞたどらるる嬉しきことはうつつならじと

暮にもど契らざりせば世の中に待つことなくてやみやしなまし

もの思ひに重ねし袖をさらにまた返してさへは歎くべしやは

新古今集・羇旅
世の中は憂きふし繁し篠原や旅にしあれば妹夢にみゆ

胸をやくけぶりは高く立つものをわが身は人のしもになりぬる

新古今集・恋
憂き身をばわれだに厭ふいとへただそをだに同じ心と思はむ

とにかくに身にはうらみの満ち満ちて面を拝むかたぞおぼえぬ