和歌と俳句

藤原俊成

新古今集・雑
あかつきと つげの枕を そばだてて 聞くもかなしき 鐘の音かな

うかるける 昔の末の松山よ 波こせとやは 思ひ置きけん

いかにせむ 賎が園生の 奥の竹 かきこもるとも よのなかぞかし

岩たたむ 山のかたその 苔むしろ 永久なへにも ものをおもふかな

年だにも 若の浦わの たづならば 雲井をみつつ 慰めてまし

憂身をば わが心さへ ふり捨てて 山のあなたに 宿もとむなり

最上川 瀬々にせかるる 稲舟の 暫しぞとだに 思はましかば

露けさはわが身のさはぞ小倉山麓の野渡の秋ならねども

世中は関戸にふせぐ逆も木のもがれ果てぬる身にこそありけれ

年経とも宇治の橋守われならばあはれと思ふ人もあらまし

磯がくれま楫しげぬき漕ぐ舟の早く浮世をはなれにしかな

天離る鄙の長路に日数経て落ちぶれぬべき身をいかにせん

思ふ人なしと思ひし世中にかは又いかに惜しき別れぞ

谷川も枕のもとと聞くほどにやがて寝覚の床ぞうきぬる

世中は秋の山田の庵なれや畔の通ひ路せはしかるらむ

わが心あれゆく宿となりにけり昔を忍ぶ草のまもなし

千載集・雑歌
憂き夢は名残までこそ悲しけれこのの世ののちもなほやなげかん

石をうつ光のうちによそふなるこの身のほどを何歎くらむ

新勅撰集・雑歌
四方の海を硯の水につくすともわが思ふことは書きもやられじ

うき身なりかけて思はじ中なかにいふ限りなき君が千年は