たれもなほ花の色をば身にしめてひとめばかりや蝉の羽衣
卯の花の垣根は雪のあしたにてよその梢は夏のやまざと
いかなれば日かげにむかふ葵草つきのかつらの枝をそふらむ
ほととぎす花たちばなに鳴くときは聲さへにほふ心地こそすれ
難波人あしまのあやめ葦の屋にやがて添へてや今日は葺くらむ
種まきしわさだの早苗うゑてけりいつ秋風の吹かむとすらむ
ともしにもしなが鳥とやますらをが猪名野は山を分けしのぶらむ
住の江に花たちばなも匂ひけり松もや昔おもひいづらむ
夏蟲の灘のしほやにすだく夜はあまの焚く火のしげくもあるかな
やまがつのしわざにもなほいらむとや埴生の小屋もかひたててけり
浮草のすゑより風は吹くなれど池のはちすぞまづかをりける
春も過ぎ夏たけぬれど氷室山ふゆを納めておけるなりけり
よろづ世も御法のながれ絶えじとや亀井の水の清く澄むらむ
須磨の関秋のはつかぜ越えてけり敷津の波の音もかはれり
たなばたのとわたる舟のかぢのはに幾秋か来つ露のたまづさ
春といひし人に見せばや津の國のとほさとをのの秋萩の花
あはれなり蓬がやどの女郎花おもひしをれて露けかるらむ