難波江や入江の葦は霜枯れて月のやどりぞ曇らざりける
冬の池にやどれる月の光よりやがて氷は結ぶなりけり
波の上に消えぬ雪かと見えつるは群れて浮かべる鴎なりけり
氷魚の寄る宇治の網代に舟とめて氷をかくる月をこそ見れ
松風にやまと琴の音ひびきあひて庭火の笛も空にすむなり
みかりする交野の小野に日は暮れぬ草の枕を誰に借らまし
冬来れば小野の炭焼きほひいでて時にあへりと思ひ顔なる
山がつのまろきさしあはせ埋火の世にあるものと誰か知るべき
けふごとに幾年波を過ぎぬらむ津守の浦の濱松の岸
袖濡れぬしちのはしかきかきそめて末まで遠き道芝の露
秋の野の萩のしげきに臥す鹿の深くも人のしのぶころかな
ぬる夜ありて夢だに見えばおのづから見はする人もあらましものを
ひとりのみ歎きし床を君がため打ち拂ふにも袖は濡れけり
浦ちどり入江の波におきわびて鳴きてぞ出づる有明の空
うらやまし安達の原の反り檀弓そりはてましを引き返しけむ
難波女の葦の篠屋の篠すすきひとよのふしも忘れやはする
真鳥すむ森の神にも問ひてきけ思へばこそは思ふともいへ
波かかる岩根につけるあはび貝こや片恋のたぐひなるらむ
をとめ塚のちはこすゑぞなびきける恨みは絶えぬものとこそきけ