和歌と俳句

後拾遺和歌集

藤原隆資
五月雨に日も暮れぬめり道遠み山田の早苗とりもはてぬに

相模
五月雨はみづのみまきのまこも草かりほすひまもあらじとぞおもふ

藤原範永朝臣
さみだれはみえしをざさの原もなし浅香の沼の心地のみして

橘俊綱朝臣
つれづれと音たえせぬは五月雨の軒のあやめの雫なりけり

叡覺法師
五月雨のをやむけしきの見えぬかなにはたづみのみ數まさりつつ

恵慶法師
香をとめてとふ人あるをあやめ草あやしく駒のすさめざりけり

良暹法師
つくま江の底の深さをよそながらひけるあやめのねにてしるかな

大中臣輔弘
ねやの上に根ざしとどめよあやめ草たづねてひくも同じよどのを

伊勢大輔
けふもけふあやめもあやめ変らぬに宿こそありし宿とおぼえね

相模
さみだれの空なつかしく匂ふかな花たちばなに風や吹くらむ

大貮高遠
昔をば花たちばなのなかりせばなににつけてか思ひいでまし

源重之
おともせで思ひにもゆるこそ鳴く虫よりも哀れなりけれ

藤原良経朝臣
澤水に空なる星の映るかと見ゆるは夜半のなりけり

能因法師
ひとへなる蝉のはごろも夏はなほうすしといへどあつくぞありける

源重之
夏刈りの玉江のあしをふみしだき群れゐる鳥のたつ空ぞなき

曾禰好忠
なつごろも立田河原の柳かげ涼みにきつつならすころかな

源頼實
夏の日になるまできえぬ冬こほり春立つ風やよきて吹くらむ

土御門右大臣師房
夏の夜の月はほどなくいりぬともやどれる水に影はとめなむ

大貮資通
何をかはあくるしるしと思ふべきひるもかはらぬ夏の夜の月

民部卿長家
夏の夜もすずしかりけり月影は庭しろたへの霜とみえつつ