和歌と俳句

高浜虚子

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島原や片側町の菜種咲く

ひらひら仁王の面の夕日かな

春風やかけならべたる能衣装

山裾や蠶の小村灯のともる

諏訪近し桑の山畑ところどころ

裏山の紫つつじ色薄し

行春や心もとなき京便り

行春や三千の宮女怨あり

行春や昔男の文のから

雨になつて今年の春もくれにけり

酒を妻妻を酒にして春くるる

おひつくもおくるるもの一人旅

春立つや六枚屏風六歌仙

礎や畑の中の梅の花

太秦や木佛はげて梅の花

さくや礎のこる十二坊

王城を鎮守の寺の梅遅し

折れ曲がり折れ曲がり根岸かな

あたたかや蜆ふえたる裏の川

春雨や布団の上の謡本

降りつづく弥生半ばとなりにけり

川に添ふ一筋町の日永かな

飯くふてねむたくなりし日永かな

山寺に線香もゆる日永かな

藍流しながし村の日永かな

大船の尻振りかはる日永かな