和歌と俳句

夏目漱石

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さらさらと衣を鳴らして梅見哉

戛と鳴て鶴飛び去りぬ闇の梅

墨の香や奈良の都の古梅園

梅の宿残月硯を蔵しけり

縁日の梅窮屈に咲きにけり

梅の香や茶畠つづき爪上り

灯もつけず雨戸も引かず梅の花

梅林や角巾黄なる売茶翁

上り汽車箱根を出て梅白し

月升つて枕に落ちぬ梅の影

紅梅や物の化の住む古館

紅梅や姉妹の振る采の筒

紅梅や文箱差出す高蒔絵

藪の危く咲きぬ二三輪

無作法にぬつと出けり崖の梅

梅一株竹三竿の住居かな

ごんと鳴る鐘をつきけり春の暮

炉塞いで山に入るべき日を思ふ

白き蝶をふと見染めけり黄なる

行春や紅さめし衣の裏

紫の幕をたたむや花の山

花の寺黒き仏の尊さよ

寺町や土塀の隙の木瓜の花

自転車を輪に乗る馬場の かな

菜の花の隣もありて竹の垣

鶯も柳も青き住居かな

新しき畳に寐たり宵の春

春の雨鍋と釜とを運びけり

満堂の閻浮檀金や宵の春

見付けたる菫の花や夕明り

鳩鳴いて烟の如き春に入る

杳として桃花に入るや水の色

骸骨を叩いて見たる菫かな

罪もうれし二人にかかる朧月

人形の独りと動く日永かな

世を忍ぶ男姿や花吹雪

寄りそへばねむりておはす春の雨

馬子唄や白髪も染めで暮るる春

春の夜の雲に濡らすや洗ひ髪

海棠の精が出てくる月夜かな

海棠の露をふるふや朝烏

木蓮の花許りなる空を瞻る

青楼や欄のひまより春の海

打つ畠に小鳥の影の屡す

物いはぬ人と生れて打つ畠か