和歌と俳句

余寒

ものの葉のまだものめかぬ余寒かな 千代女

来たといふまでも胡蝶の余寒かな 千代女

關守の火鉢小さき餘寒哉 蕪村

襟巻の浅黄にのこる寒さかな 蕪村

思ひ出て薬湯たてる余寒哉 召波

情なふ蛤乾く余寒かな 太祇

猪垣に余寒はげしや旅の空 太祇

水に落し椿の氷る余寒哉 几董

病人の巨燵消えたる餘寒哉 子規

残り少なに餘寒ももののなつかしき 子規

手向くるや餘寒の豆腐初桜 子規

水餅や余寒の水に残りある 碧梧桐

磯岩に飛び岩の鵜も余寒かな 碧梧桐

峰の色壁の色なる餘寒かな 万太郎

鎌倉を驚かしたる餘寒あり 虚子

竹うごいて影ふりおとす余寒かな 鬼城

大寺に沙弥の炉を守る余寒かな 鬼城

仙人掌の角の折れたる余寒かな 鬼城

かんばしく紅茶のたぎる餘寒かな 草城

檄を書く餘寒の紙の白さかな 草城

烏鷺交々落ちて余寒の碁盤かな 龍之介

石稀に更けて余寒の碁盤かな 龍之介

阿羅漢の肋けはしき余寒かな 龍之介

瓦斯に火をつけたるときの餘寒かな 万太郎

引窓の餘寒の雨となりにけり 万太郎

巻紙に書きちらす句の餘寒かな 万太郎

丹前をぬぎ捨てしままの餘寒かな 万太郎

抜き残す赤蕪いくつ余寒哉 龍之介

屋根屋根を餘寒の雨の濡らしけり 万太郎