和歌と俳句

高浜虚子

前のページ< >次のページ

鎌倉を驚かしたる餘寒あり

いつの間に水草生ひて住める門

春雨やすこしもえたる手提灯

草摘みし今日の野いたみ夜雨来る

嫉妬とは美しき人の宵の春

近よれば白粉の穢や櫻人

料理屋は皆花人の下駄草履

園深し雀を逃げて人に

舞台暫し空しくありぬ壬生念仏

亡国の狭斜美し春惜む

春惜む輪廻の月日窓に在り

鶯や卒然として霞める日

雲静かに影落し過ぎし接木かな

造花已に忙を極めたる接木かな

山吹や裏戸あきたり人未だ

宮普請和布かけたる鳥居あり

これよりは恋や事業や水温む

静さや花なき庭の春の雨

雛の灯のほかとともりて暮遅し

春水や矗々として菖蒲の芽

風落ちて窪める水や蘆の角

船橋の浅き汀や蘆の角

葛城の神みそなはせ青き踏む

棒切れをつつめる垢や蝌蚪の水

山吹の雨や双親堂にあり