春雨や山里ながら広き道 石鼎
つれづれを琴にわびしや春の雨 漱石
草双紙探す土蔵や春の雨 漱石
錦絵に此春雨や八代目 漱石
春雨や京菜の尻の濡るる程 漱石
節
松が枝にるりが竊に來て鳴くと庭しめやかに春雨はふり
節
梧桐の幹の青きに涙なすしづく流れて春雨ぞふる
晶子
大空の日の面をば濡らすごと菜の花に降る春の雨かな
晶子
薮の下橋と菜種の黄なる花つづく処も春雨ぞふる
春雨やすこしもえたる手提灯 虚子
土恋へる廚の葱や春の雨 泊雲
春雨や浜に堆きあくた塚 石鼎
寂として南殿さびしき春の雨 龍之介
牧水
しとしとと春の雨こそ地には降れ居るとしもなきわがこころかな
茂吉
春雨は降りて幽けしこの夜半に家のかひ馬の目ざむる音す
茂吉
春雨はくだちひそまる夜空より音かすかにて降りにけるかも
春雨や身をすり寄せて一つ傘 漱石
岡持の傘にあまりて春の雨 漱石
静さや花なき庭の春の雨 虚子
茂吉
現身は現身ゆゑにこころの痛からむ朝けより降れるこの春雨や
霜除のとれた庭なり春の雨 万太郎
晶子
なつかしき魔法使の春の雨わが思ひさへ桃色にする
牧水
江戸川の水かさまさりて春雨のけふも煙れり岸の桜に
春雨の雨脚見えず海の上 龍之介
春雨や枯笹ぬるる庭の隈 龍之介