和歌と俳句

齋藤茂吉

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七面鳥

冬庭に 百日紅の木 ほそり立ち 七面鳥の つがひあゆめり

ゆづり葉の 木かげ斜に をんどりの 七面鳥は 急ぎあゆめり

うちひびき 七面鳥の をんどりの 羽ばたき一つ 大きかりけり

まかがよふ 光のなかに 首あげ 七面鳥は 身ぶるひをせり

ひばの木の 下枝にのぼる をんどりの 七面鳥の かうべ紅しも

あかねさす 日もすがら見れど 雌鳥の 七面鳥は しづけきものを

七面鳥 かうべをのべて けたたまし 一つの息の 聲吐きにけり

七面鳥の 腹へりしかば たわやめは 青菜をもちて こまごまと切る

ゆづり葉の もとにひとむら 雪きえのこり 七面鳥は 寝にゆきにけり

雑歌

むかう空に ながれて落つる 星のあり 悲しめる身の 命のこぼれ

みちのくの 米とぼしとぞ 小夜ふけし 電車のなかに 父をしぞ思ふ

しんしんと ふるなかに たたづめる 馬の眼は またたきにけり

電車とまる ここは青山 三丁目 染屋の紺に ふり消居り

ほうつとして 電車おりし 現身の 我の眉間に ふりしきる

春がすみ とほくながるる 西空に 入日おほきく なりにけるかも

にはたづみ 流れ果ねば 竹の葉ゆ 陽炎のぼる 日の光さし

さにづらふ 少女の歎も ものものし 人さびせざる こがらしの音

赤光の なかに染まりて 歸りくる 農夫のをみな 草負へりけり

なげかざる 女のまなこ 直さびし 電燈のもとに 湯はたぎるなり