まかがよふ 眞夏なぎさに 寄る波の 遠白波の 走るたまゆら
真夏日の 海のなぎさに 燃えのぼる 炎のひびき 海人はかこめり
六人の 漁師が圍み あたりをる 眞晝渚の 火立のなびき
くれなゐに ひらめく火立を 眞晝間の 渚の砂に 見らくし悲し
まかがよふ 晝のなぎさに 燃ゆる火の 澄み透るまの いろの寂しさ
すき透り 低く燃えたる 濱の火に はだか童子は 潮にぬれて来
旅を来て大津の濱に昼もゆる火炎のなびき見すぐしかねつ
いばらきの 大津みなとの 渚べを い行きもとほり 一日わらはず
みちのくの 勿来へ入らむ 山がひに 梅干ふふむ あれとあがつま
日焼畑 いくつも越えて 茎太の こんにやく畑に われ入りにけり
うらわかき 妻はかなしく 砂畑の 砂はあつしと 言ひにけるかも
みちのくへ あが嬬をやりて 足引の 山の赤土道 あれ一人ゆく
平潟へ ちかづく道に 汗は落つ 捨身あんぎやの 我ならなくに
いりうみの 汐おちかかる 暁方の 舟の搖れこそ あはれなりけれ
眉ながき 漁師のこゑの ふとぶとと 泊てたる舟に ものいひにり
いばらきの 濱街道に 眠りゐる 洋傘うりを 寂しくおもふ
あさまだき 道玄坂を くだり来て 橋をわたれり さかまけるみず
渋谷川 うづまき流る たもとほり うづまく水を 見れど飽かぬかも
さ庭べに 竝びて高き 向日葵の花 雷とどろきて ふるひけるかも
雨はれて 心すがしく なりにけり 窓より見ゆる 白槿木のはな
雨はれし のちの畳の うすじめり 今とどまりし 汽車立つきこゆ
雨はれし さ庭は暗し 幽かにて こほろぎ鳴けば 人もかなしき