和歌と俳句

軽部烏頭子

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こしかたや大演習のたけなはに

迷ひ路やぬるでの紅葉まのあたり

道の上に蕎麦を打つなり姉妹は

たかむらに鵙鳴くかたとをしへざる

甘藷掘れるその土の香にたもとほる

風に鳴る桑の枯葉の径もせに

籾むしろ打つ音かなしく暮れのこる

吾をよぶ吾子は鶲をもろの手に

鶲獲てたかぶる吾子が面はも

この鶲あらき吾が掌にみぢろがず

ひたぶるに鶲はつぶり黒き目を

鶲獲て鶲のがれて日はゆきぬ

踏みて飽かぬ山ふところの春の土

海見えて一樹の梅の咲くところ

去りがてに山ふところの暮るゝ

藪の面に吹かれて夜のとなる

萌ゆる草かほるといふがいつはりか

鯛よぎり虎河豚よぎり星あかり

虎河豚のはだら妖しも星あかり

星あかり驕れる河豚を黄に染むる

虎河豚のはだらの黄色夢に来し

梅咲くや蜷静かなる水に沿ひ

蜷の道織りなすあやのけふしげく

日あたればあやあきらかに蜷の道

風そひて蜷のいとなみやみぬらし

水浅し蜷もせゝらぐごとくなり

彼の端山地獄にまがふ焚火あぐ

泥地獄虚ろに紫雲英咲きにけり

地獄道石楠掘りが下りて来し

一人ゐて湯の花小屋の家根替ふる

湯の花となる土にゐて春惜しむ

ひさかたの松原くらし海蘿掻き

海蘿掻くひとのうしろに海蘿掻き

かへるさの汐せまれるに海蘿掻き

潮もて草履濯ぎぬ海蘿掻き

ひたよする汐路に立てり海蘿掻き

みとりゐの蚊帳つられあり白き蚊帳

かゝげ給ふ蚊帳も十字架もゆらめける

蚊帳せばく合掌の人たちならぶ

白き蛾のきて合掌の瞳をうばふ

白き蛾にさゝやかれしは伊太利亜語

合掌のもすそに白き蛾を見たり

雨乞ふと萱のふかきにたへ登る

競馬場むらさき丸の海が見ゆる

草刈女行き過ぎしかば紺匂ふ

七夕の色紙と吾子とちらばれる

納涼園画ける滝をかゝげたり

かづきめに燕に浪はうすぐもり

かづきめの息吹によりこつばくらめ

かづきめはさかたち燕ひるがへり

かづきめの没くれし浪につばくらめ

かづきめの息吹に燕鳴きかよふ