和歌と俳句

軽部烏頭子

1 2 3 4 5 6 7 8

うつうつと木菟の瞼の二重かな

かにかくに名草の芽といつくしむ

春の水ふるき水草を梳る

踏青やありて渉りしさゝ流れ

降りかえり振り返りては青き踏む

耕牛の触れて波うつ籬かな

山の鳥きてればおひるかな

蒲公英の花を傾け蟻の塔

三つの巴翻りにあがりけり

蝶々に小さき花の撓みけり

雨そひて千々に吹かるゝ杜若

嵩もなき籠のにほゝ笑みぬ

月代のありとしもなき蛙かな

放ちやるひとつひとつの金魚かな

吹くからに柳絮の天となりにけり

水馬松の花粉にゆきなやむ

麦笛にかがやく路のあるばかり

麦笛のそれたる径とおもほゆる

いざなひてのともしびたてまつる

日を経てはおこたるの灯かな

牡丹の睡らずなりし花あはれ

夜となればひくき山かな蛙きく

欄にまひるの蓮のしづかかな

今日とりて明日つむ苺なかりけり

静かにもこずゑはなるゝ柳絮かな

なかぞらにほぐれわかれし柳絮かな

吹かれては地をはなるゝ柳絮かな

川蝉のつらぬき失せし青葉かな

雑草に梅雨も終りの日ざしかな

一双の虹をかけたりはだか山

あかあかと灯虫よぶ火を焚きいでし

草の戸や灯虫よぶ火のあかあかと

灯に遠き裸の面の飯を食ふ

朝涼や栗鼠がきて食ふ花メロン

夕立の名残ふちどる広葉かな

瓜を守る山ふところの灯なれかし

はじまらぬ踊たのしみくらがりに

見えがてに踊の人輪めぐるかな

舷に流れつまづく燈籠かな

干草にかくれし径のみちをしへ

水あれば濯ぐ人あり草の花

名を知れる三種四種や草の花

灯のもるゝほとりのちゝろ虫

唐黍の雑れそめたる外寝かな