和歌と俳句

軽部烏頭子

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萩しきてまろばんこゝろ吾子を追ふ

男郎花霧うすければかくれ去らぬ

まろび寝の瞳は蜂を追ひ吾子を追ひ

汗ばみし額にふるゝ花のある

瞠きて花野の天の澄むに堪へぬ

吾子が手に花野の花はあふれ咲く

おはぐろとやまべの渦とさかのぼる

流れつゝやまべの渦のさかのぼる

おはぐろは岐れし水に沿ひゆけり

色かへぬ松ひとむらとキャディー立てり

草塚によればキャディーも来たりよる

トラクターの櫛にもたれる龍胆なり

トラクター霜のふかきに櫛の目を

北風つよき九番ホールをあへてゆきぬ

野火あげてかひなき笞うちふるふ

畦ゆけり茅萱紅葉をふみて立てり

冬しらぬ田ごとの草を飽かで踏む

温泉けむりに馴れつゝ櫨は実を垂れぬ

温泉けむりはますぐに鵯は声をやめし

梅が香をきゝしとおもふ風の中

強き風きて梅が香をうばひ去る

梅が香や風のしゞまによみがへり

少女肥えたり海苔すくふべく扮装ちぬ

海苔すくひ汐を踏むよりすくひたり

父はとくいとも深きに海苔すくへり

あがりきて渚の海苔に手をやりぬ

海苔籠の砂に曳きゆく汐ひとすぢ

海苔すくひ千鳥を置きて去りにけり

滴りつ零れつ石蓴干されゆく

いやはての鴨のたむろはけぶらへる

この島の椿は散りぬむらさきに

一連の石蓴乾けり島の冬

醤蝦舟に鳰のたそがれ襲ひきぬ

春蘭の古葉剪らんと思ひつゝ

春蘭と二月の雲のゆく下に

花現れし春蘭いだき屋上より

山つ神春の巷に灰をそゝぐ

真日を降る山火の灰ぞ眉をかすめ

をのゝきて人にとまりぬ山火の灰

ちろちろと舗道はしるよ山火の灰

日を歪め山火の灰がしんしんと