和歌と俳句

高浜虚子

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書乏しけれども梅花書屋かな

北に富士南に我が家梅の花

雛納め雛のあられも色褪せて

人影の映り去りたる水温む

春水をせせらぐやうにしつらへし

春水に落るが如くほとりせり

牛曳きて春川に飲ひにけり

書を置いて開かずにあり春炬燵

やヨットクラブの窓の外

飛燕にも心ありとも思はるる

乱れ飛ぶ飛燕かなしと見やりけり

破れ傘を笑ひさしをり春の雨

春雨や茶屋の傘休みなく

春雨の傘の柄漏りも懐しく

水くねり流るる邑やかげ

経の声和し高まり

神域の心得読むや花の下

日当りて電燈ともり町桜

花にゆく老の歩みの遅くとも

春草を踏み越え踏み越え鳩あるく

とまり獅子の睡りを醒しけり

なとがめそ子供がなくて朝寝妻

唄ひつつ笑まひつつ行くの人

春泥に映りすぎたる小提灯

閻王の眉は発止と逆立てり

窓外の風塵春の行かんとす

元禄の昔男と春惜む