薄氷の上にかぐはし春の塵
又ここに猫の恋路とききながし
芝焼いて青き小草の現るる
子を抱いて老いたる蟹や猫柳
尼寺に小句会あり鳴雪忌
語りつつ歩々紅梅に歩み寄る
実朝忌油井の浪音今も高し
春の水風が押へて窪むまま
裏口を出て来る家鴨春の川
春の川ゴルフリンクに大曲り
窓の灯の消えて綾なし春の泥
一鍬も己が力をたのみ打つ
おほどかに日を遮りぬ春の雲
桜餅女の会はつつましく
桜餅籠無造作に新しき
ここに又住まばやと思ふ春の暮
春宵の此一刻を惜むべし
蝶もとびふるさと人もたもとほり
花散るや鈍な鴉の翅あたり
やや暑く八重の桜の日蔭よし
花の宿ならざるはなき都かな
春眠を起すすべなく見まもれり
春眠の一笑まひして美しき
高殿や四方の山に藤かかる
ゆく春の書に対すれば古人あり
風吹いて暮春の蝶のあわただし