和歌と俳句

石田波郷

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行雁や何かは煮むと思ふとき

婆が手の蕨あをしも花曇

遠足や出羽の童に出羽の山

山下りてもんぺ鮮し春祭

栃の芽や古雪を抽き捧げらる

縁談を措き来し旅の春惜しむ

こけし買ふ数の恋しき四月尽

手に足に蟻や国原霞みけり

最上川嶺もろともに霞みけり

国原や雪解の山のなだれあひ

花冷の簷を雲ゆく別れかな

花冷の顔ばかりなり雲の中

花ちるや瑞々しきは出羽の国

竹の秋菜園繁りそめにけり

馬鈴薯の花の日数の旅了る

茄子苗のしばらく乾く厨かな

茄子植うやうらわかき日の雨合羽

松籟の武蔵ぶりかな実朝忌

日洩れ来し谷を急ぎて実朝忌

古葎美しかりし春の泥

冴返るわれらが上や二仏

常盤木の冴え返りたる面会日

桑の芽や破屋と言ひて過ぎざらむ

アパートを棲み捨つる日や春の雁

槻の芽の忽ちし勤め初む

がうがうと欅芽ぶけり風の中

多羅の芽の十や二十や何峠

立春の風切さやに鴎鳥

きさらぎの茶山かがやく日和かな

春立つやこころのゆるぶときもなし

ぐざと麥の芽をつかみたる銃弾下

飯盒の飯のつめたきかな

負へるものみな磐石や夕霞

放鳩やうすうす帰る雁の列

三月の鳩や栗羽を先づ翔ばす

榛の青楊に幾日後れけむ

寝返りをうたんとするや春の雁

春立つや白衣の袖に小買物

消えがての雪や月夜を重ねけり

大君の焼土に立たす彼岸かな

焼跡に菜蒔き藷植う君がため