臼田亞浪
掌にとつて草葉のうごく暖かき
水辺ゆく心ひろしも鳴く雲雀
石楠花に手を触れしめず霧通ふ
春やゆく夜は夜わびしき路の草
春寒う机かすめて日の消えし
囀りの一木が日向つくりをり
夕暮の水のとろりと春の風
壁かげの雛は常世に冷たうて
山の椿小鳥が二つかくれたり
ざうざうと竹は夜を鳴る春山家
曙や露とくとくと山桜
死ぬものは死にゆく躑躅燃えてをり
豆雛が箪笥の上に忘られて
雛箱の紙魚きらきらと失せにけり
行春の日向埃に商へり
春惜む心に遠き夜の雲
干潟遠く雲の光れる暮春かな
逆潮のひびき鳴門の春暮れつ
陽炎の草に移りし夕べかな
北が吹き南が吹いて暮るる春
天風が雲雀の声を絶つしばし