臼田亞浪
淡雪や女雛は袂うち重ね
春泥をゆく声のして茜さす
はくれむや起ち居のかろき朝来り
焼け残る塀の日向の薺かな
花舞うて焦土の電車途絶えたり
潮泡のつぶやきを聴く春の風
四月馬鹿真顔さらして花のもと
子雀の三つかたまりて鳴けば鳴く
子雀をいつくしむ鞄投げ出して
薊咲き下田通ひの船がゆく
夕花菜帰漁の唄のはずみ来よ
塩辛にひしほに春の来にし夜ぞ
トランプに或る夜はむつぶ春めけり
白れむやあしたの霜を語り過ぐ
白れむに夕日の金の滴れり
あと追へるひよこにすくむ子よ麗ら
黙々と土塀つらなり花垂るる
蔭の花春蘭の香に眼を見はる
木蘭の崩れぬかるみ往きまどふ
芽木林たまたま雷の雲垂りつ
工場裏湫なし雨の春ゆくか