雛の眼の遠い空見ておはすなり
春雨のえにしだの素直なる青さ
鉄橋へ春水のかげさわがしき
山桑の花白ければ水応ふ
夢安からむ今宵蛙の諸声に
言問はむ真間の芦洲に啼くげげす
巣にくだる鷺のもろ羽の碧みさす
風青く鱒の子はやも人に怖づ
山鴬の木魂の深く雪照らふ
春愁の幻像失せて眠りたり
行く雲の心を誘ふ暮の春
うまご泣きやめり桜草日をふくむ
うまごの耳の敏くなりしよ南風吹く
谷底に田打てる見えて一人なり
春寒の夜の雲燃ゆるまがまがし
寒戻り雛の眠りも浅からむ
石楠花のまざまざと夢滅びぬる
山蛙けけらけけらと夜が移る
巌父とす大雪山の照りかすみ
白竜の地軸をゆする芽を誘ふ
鐘や響かん昼風の虻うなり